(H様邸のご新居。2階にLDKを設けた明るいお住まいです。)

ご自宅の建て替え工事が終わり、無事お引き渡しの日を迎えたH様邸でのお話し。

お建て替えとなると、当然ながらすべての物はなくなってしまいます。
新しい家を建てる喜びがある反面、解体の時は持ち主でなくても
何か物悲しさを感じるものです。

長年住みなれた家の中にあった床のシミやドアの傷などを見ても
家族と過ごした日々の中で起きた出来事と直結し、
『あーーあんなことがあったなあ』と思い出すかもしれません。
そして、ある家族は床の間に使われている銘木の床柱や床板を残せないものかと
お考えになるかもしれません。

そんな中で、お施主様の息子様が残したかったもの――。
それは「欄間(らんま)」でした。

以前のお住まいに使われていた欄間は、天然木の木目を生かして
松、竹、梅などが立体的に彫られた “彫刻欄間” です。

板の厚みも15mm以上は無いと浮き出るような絵柄が彫れないため、
欄間の中でも高級品の部類に入ります。

通常、欄間は2枚の続き柄で1対になっています。

欄間の歴史は古く、天平文化が華開いた奈良時代の寺社建築で
採光を目的に作られたとされており、
のちに技巧を凝らした豪華な
彫刻が施されたものが貴族の住居に使用されるようになりましたが

江戸時代までは、武家や一部の豪商など、特権階級にしか
その使用が認められていませんでした。

権威の象徴でもあったからでしょう。

江戸時代中期になって、商家を中心とした一般の住宅の茶の間や客間等の
天井と鴨居(かもい)の間に、
採光や風通しを良くするためにと、
品格を表すための室内装飾として取り付けられるようになりました。

時代は流れ、昭和に入ってからも和室に豪華な彫刻欄間を入れる傾向は残り、
おめでたい松竹梅のほかに鶴亀や日本の風景などを彫り上げたものが使われました。

和洋折衷の住宅が増えてからはシンプルな「組子欄間」を取り入れる住宅も
増えていきました。

和室の続き間に設けられる「間越し欄間」、書院戸の上部に付けられた「書院欄間」、
和室と縁側の間には「明り取り欄間」などが設けられ、
皆様も一度は目にされたことがおありでしょう。

私たちが暮らす阪神間では江戸時代の初期に四天王寺の再建と共に誕生した
「大阪欄間」があります。


戦争によって一時的にその歴史は途切れたようですが、

戦後の復興と共に徐々に職人さんたちも戻り、
今では国の伝統的工芸品として指定されています。


大阪欄間は、樹齢何百年という屋久杉はじめ、春日杉、吉野杉、秋田杉のほか、
檜や桐などの美しい木目を生かした「彫刻欄間」が有名ですが

シンプルな幾何学模様の「組子欄間」、木肌と透かし模様が調和した「透彫欄間」、
「筬(おさ)欄間」や「抜(ぬき)欄間」など、
多彩なものがたくさんあるのも特徴です。


今では戸建て住宅だけでなく、マンションやホテルなどのインテリアとして、
日本の美を表す芸術品としても、
衝立やテーブル、照明や額など
様々な形に変えてその技巧は受け継がれています。

ですから、H様が彫刻欄間を残したいとお考えになったのも、
至極当然のように思います。

そこで、私どもからの提案で、1枚は和室の装飾品(置物)として
もう1枚は玄関シューズクロークの建具の上、小壁にはめさせていただきました。


人の手によって生み出された、二つと同じものは無い古き良き物が

これからもずっと暮らしとともにあると想像すると、なんて素敵なことでしょう。

美しいものは必ず人の目を引きつけます。

もし、皆様の家をお建て替えされるときに
『こんな古いものはもう要らない!』とか、

『今度の新築には和室らしい和室は無いから』と言って処分してしまわずに、
玄関や寝室などのインテリアとして利用してみられてはいかがでしょうか。